
外国人が日本で会社や飲食店などを経営する際に使われる在留資格「経営・管理」。その許可基準が大幅に厳しくなり、小規模事業を長年続けてきた外国人経営者から「もう日本では続けられない」との声が出ています。
FRIDAYデジタルは9月9日、約9年にわたり東京都内でカレー店を営んできたネパール出身の男性などを取材。新たな「3,000万円の壁」によって、小規模な外国人飲食店が廃業・撤退を迫られる可能性を報じました。
その一方、記事では別の外国人経営者から、資金力のある中国系投資家などは新基準を満たしやすく、「小規模な外国人だけが退出し、資本力の大きい中国資本は残るのではないか」との懸念も紹介されています。
ただし、ここは事実と意見を分ける必要があります。「中国資本にだけ制度上の抜け道がある」「中国人なら3,000万円要件を免除される」という政府制度は確認できません。報道に出てくる「すり抜ける」という表現は、資金力の差によって新基準への対応力に差が生じるという当事者の見方です。
何が変わった?「経営・管理」500万円→3,000万円
出入国在留管理庁は2025年10月16日、在留資格「経営・管理」の許可基準を大幅に改正しました。
| 項目 | 従来 | 改正後 |
|---|---|---|
| 資本金・事業規模 | 500万円が主な基準 | 3,000万円以上 |
| 常勤職員 | 500万円要件を満たせば必須ではなかった | 1人以上の雇用が必須 |
| 日本語 | 原則、独立した要件なし | 申請者または常勤職員がB2相当以上 |
| 経歴・学歴 | 経営者について独立要件なし | 関連分野の修士等または経営・管理経験3年以上 |
| 事業計画 | 提出 | 専門家による確認を義務化 |
法人の場合、3,000万円は原則として払込済み資本金や出資総額で判断されます。個人事業主の場合は、事業所確保、従業員の1年間の給与、設備投資など、事業に投下している財産の総額で判断されます。
日本語はJLPT「N2以上」など
新基準では、申請者本人または常勤職員のいずれかに、日本語教育の参照枠B2相当以上の日本語能力が求められます。外国人の場合、JLPT N2以上、BJT400点以上、日本の大学等卒業などで証明できます。
「修士以上」または経営経験3年以上も必要
申請者には、関連分野の博士・修士・専門職学位、または事業の経営・管理について3年以上の経験が必要です。新規事業の事業計画書も、中小企業診断士、公認会計士、税理士などによる確認が必要になりました。
つまり今回の改正は「資本金だけ6倍」ではありません。雇用、日本語、学歴・職歴、事業計画の実現性まで複数のハードルを同時に引き上げたのが特徴です。
既存の外国人は2028年10月に全員帰国?→違う
既に「経営・管理」で在留していた人には経過措置があり、2028年10月16日までは、新基準を満たしていないという理由だけで更新が一律不許可になるわけではありません。
さらに入管庁は、経過期間終了後でも、3,000万円に届かないことだけで自動的に不許可になるわけではないと説明しています。経営状況が良好で、納税義務を適切に履行し、次回更新時までに新基準を満たす見込みがある場合などは総合的に判断されます。
「2028年10月になった瞬間、3,000万円未満の外国人経営者が全員帰国」という説明は正確ではありません。
10月から在留手数料も大幅アップ
2026年10月1日以降に申請する在留資格変更・在留期間更新・永住許可では、手数料も引き上げられます。
オンライン申請では、在留期間1年の変更・更新は2万7,000円、3年以上5年未満は5万6,000円、5年以上は6万5,000円です。一定の経済的困難などには減額制度もあります。
「真面目な外国人ほど退出、中国資本は残る」は本当?
制度上は国籍による違いはありません。ネパール人、インド人、中国人、米国人など、同じ「経営・管理」を使うなら基本的には同じ基準です。
ただし、制度変更が資金力の差を強く反映する仕組みになったことは事実です。小規模飲食店には3,000万円・常勤雇用が重い一方、富裕層や大企業は対応しやすいケースがあります。
ポイントは「中国人だから有利」ではなく、「資本力が大きい投資家ほど有利になりやすい」です。中国資本が目立つケースはあり得ますが、制度上の中国限定優遇とは別問題です。
中国資本が店を買い、元経営者を従業員にするのは「抜け道」?
FRIDAYの記事では、外国人経営者の証言として、中国資本が小規模店舗を買収し、元経営者を従業員として雇い、在留資格を変更させるケースへの懸念が紹介されています。
ただし、会社の買収や雇用、在留資格変更そのものが直ちに違法な抜け道というわけではありません。実際の仕事内容が新しい在留資格に該当し、雇用実態や報酬などの要件を満たしていれば、制度上認められ得ます。
「中国資本が違法にビザ制度をすり抜けている」と一般化する根拠はありません。不正な名義貸し・虚偽申請等があれば、国籍にかかわらず審査・取締りの対象です。
ここから補助金|中国資本への補助金は増える?
結論として、経営・管理ビザを厳格化した代わりに、中国資本へ補助金を増額するという政策は確認できません。
ただし、日本政府は別の政策として、外国企業・外資系企業による対日投資を積極的に誘致しています。つまり現在の日本は、外国人個人による小規模な「経営・管理」在留は厳格化しつつ、成長性のある外国企業・外資系企業による投資は誘致する、という政策を同時に進めています。
JETROには外資系企業向け補助制度がある
JETROは2026年度、「海外ビジネス展開支援等事業費補助金(対内直接投資促進事業)」を実施しています。
日本企業と外国企業・外資系企業が協業し、日本へ革新的な技術・ビジネスモデルを導入するための実証・事業可能性調査などを支援する制度で、製造、ヘルスケア、グリーン、デジタル、半導体、ライフサイエンスなどが対象です。2026年7月には7社の採択事業者が公表されました。
この制度は「中国企業専用」ではありません。外国企業・外資系企業を広く対象とし、事業内容や日本への投資効果などを審査して採択します。
中国資本の日本法人も対象になり得る?
制度要件を満たす外国企業・在日外資系企業であれば、本社国籍だけを理由に一律排除する制度ではありません。そのため、中国企業が設立した日本法人でも、個別制度の公募要件を満たし、審査で採択されれば補助対象になる可能性があります。
逆に、中国資本だから自動的に補助金が支給されるわけでもありません。
「外資系企業が補助制度を利用できる」=「中国資本への給付金ばらまき」ではありません。多くは事業計画や投資効果を審査する企業向け補助金です。
2026年度には「日中経済交流等事業」の補助金も
経済産業省は2026年度、「日中経済交流等事業」の補助事業者を公募しました。日中間の調査、セミナー・マッチング、ハイレベル交流などを支援し、日本企業の中国市場での事業展開や日中経済交流を後押しするものです。
これも「中国資本の企業へ現金給付する制度」とは異なります。日中経済交流・日本企業の中国展開を支援する政策経費です。
補助金と「給付金」は分けるべき
| 制度 | 一般的な仕組み | 中国資本との関係 |
|---|---|---|
| 企業向け補助金 | 設備投資・研究開発・実証等の経費を支援 | 外資系日本法人も要件次第で対象 |
| 対日投資支援 | 外国企業の日本進出・事業拡大を支援 | 中国を含む各国企業が対象になり得る |
| 個人向け給付金 | 所得・世帯・居住等の条件で現金給付 | 企業の資本国籍とは別制度 |
一方で、外国投資の審査は2026年に強化
2026年6月5日には改正外為法が公布され、外国投資家による日本企業への投資審査が強化されました。
- 海外法人を買収して日本企業を間接取得する取引も規制対象へ
- 外国政府等の支配・影響下にある投資への対応を強化
- 安全保障上リスクの高い投資について、非指定業種でも投資後の措置を可能に
- 関係省庁による審査体制を強化
現在の政策は「外国資本を全部排除」でも「全部ウェルカム」でもありません。雇用・技術・イノベーションにつながる外資は誘致する一方、安全保障上のリスクがある投資は審査を強める二段構えです。
「中国資本への補助金が増える」とは現時点で言えない
2026年9月9日時点で、経営・管理ビザ厳格化に伴って中国資本への補助金を増やす、中国企業だけに新給付金を支給する、中国資本を優先採択する、といった方針は確認できません。
一方、対日直接投資を増やす政策は続いているため、中国を含む外国企業が日本へ進出し、外資向け・国内投資向けの補助制度を利用する事例自体は今後も起こり得ます。
この記事のポイント
- 「経営・管理」は2025年10月16日に厳格化
- 資本金等は500万円から3,000万円へ
- 常勤職員1人、日本語B2相当、関連学位または3年以上の経験などが必要
- 既存在留者には2028年10月16日まで経過措置
- 3,000万円未満だけで一律更新不許可になるわけではない
- 中国資本だけが免除される制度は確認できない
- 資金力のある投資家ほど新基準に対応しやすい構造はある
- 中国資本への補助金をビザ厳格化に合わせて増やす政策は確認できない
- JETROには外国・外資系企業を対象とする対日投資補助制度がある
- 2026年6月には外為法を改正し、外国投資の安全保障審査も強化
よくある質問
Q:中国人だけ3,000万円要件を免除されますか?
そのような国籍別の免除制度は確認できません。
Q:2028年10月までに3,000万円を用意できなければ必ず帰国ですか?
必ずではありません。経営・納税状況や次回更新までに基準を満たす見込みなどを総合判断すると入管庁は説明しています。
Q:中国資本への補助金は増えるのですか?
ビザ厳格化に合わせ、中国資本だけへの補助金を増やす政策は確認できません。一方、外国・外資系企業一般を対象にした対日投資促進補助制度はあります。
Q:中国企業は日本の補助金を申請できますか?
制度次第です。外国企業や在日外資系企業を対象とする制度では、中国系企業も要件を満たせば申請対象になり得ます。
参照情報
- FRIDAYデジタル:ビザ厳格化で「もう日本はムリ」…
- 出入国在留管理庁:「経営・管理」に係る上陸基準省令等の改正
- 出入国在留管理庁:2026年10月1日からの在留許可手数料改定
- JETRO:海外ビジネス展開支援等事業費補助金
- JETRO:2026年度採択事業者
- 経済産業省:令和8年度「日中経済交流等事業」
- 財務省:2026年改正外為法




