配偶者が亡くなった後の生活を支える「遺族厚生年金」が、2028年4月から大きく変わります。

特に注目されているのが、

「遺族厚生年金が原則5年間になる」

という変更です。

しかし、この説明だけではかなり誤解があります。

現在受給中の人全員の年金が5年で打ち切られるわけではありません。

60歳以上で配偶者を亡くした人、一定年齢の女性、18歳年度末までの子どもを養育している人など、今回の変更による影響を受けないケースもあります。

さらに対象者には、5年間の給付額を現在の遺族厚生年金のおよそ1.3倍にする新しい加算が設けられます。低所得など一定の事情があれば、5年を超えて最長65歳まで受け取れる「継続給付」も導入されます。

「5年で全部なくなる」と考えるのは正確ではありません。

なぜ遺族厚生年金が変わるのか

現在の遺族厚生年金には、大きな男女差があります。

子どもがいない場合、現行制度では、

女性

  • 30歳未満で夫を亡くした場合:原則5年間
  • 30歳以上:期限の定めのない給付

男性

  • 55歳未満で妻を亡くした場合:原則支給なし
  • 55歳以上:原則60歳から支給

という違いがあります。

これは、夫が家計を支え、妻は就労によって生計を立てることが難しいという時代の家族モデルを前提に作られてきた制度です。

女性の就業率上昇や共働き家庭の増加を受け、2025年に成立した年金制度改正法では、この男女差を段階的に解消することになりました。

2028年4月から「男女共通・原則5年間」へ

見直し後は、18歳年度末までの子どもを養育していない60歳未満の配偶者について、

男女とも原則5年間の有期給付

という仕組みに変わります。

ただし男性と女性では移行方法が異なります。

男性については2028年4月から新制度が適用され、これまで支給されなかった若い夫にも遺族厚生年金が支給されるようになります。

厚生労働省は、新たに5年間の有期給付を受けられる60歳未満の男性を年間約1万6,000人と推計しています。

男性にとっては単純な「削減」ではなく、むしろ対象が大きく拡大する改正でもあります。

女性は一気に5年になるわけではない

女性については、影響を緩和するため20年間かけて段階的に移行します。

2028年の制度開始直後に新たに原則5年給付の対象となるのは、

18歳年度末までの子どもがおらず、2028年度末時点で40歳未満の女性

です。

厚生労働省によれば、新たに影響を受ける30代女性は年間約250人と推計されています。

「2028年になったら40代・50代の妻も全員5年間になる」という話ではありません。

今すでに遺族厚生年金をもらっている人は?

今回の改正で特に重要なのがここです。

厚生労働省は、次の人については今回の見直しの影響を受けないと明記しています。

  • すでに遺族厚生年金を受給している人
  • 60歳以降に受給権が発生する人
  • 18歳年度末までの子どもを養育している期間
  • 2028年度に40歳以上になる女性

つまり、現在遺族厚生年金を受給中の人が2028年4月になった瞬間に「あと5年で終了」となる制度ではありません。

ここは非常に誤解されやすい部分です。

5年間は「現在より約1.3倍」へ増額

受給期間が原則5年間になる一方、その5年間の給付額には新しい有期給付加算が上乗せされます。

厚生労働省は、

現在の遺族厚生年金額のおよそ1.3倍

になると説明しています。

例えば、仮に現行制度で月8万円相当となるケースなら、

8万円×1.3=約10万4,000円

というイメージです。

ただし実際の年金額は亡くなった人の厚生年金加入期間や標準報酬などによって計算されるため、一律10万4,000円が支給されるわけではありません。

「年収850万円未満」の収入要件も撤廃

現行の遺族厚生年金では、生計維持要件として原則年収850万円未満という収入基準があります。

新しい5年間の有期給付では、この収入要件を撤廃します。

そのため、高収入であることを理由に最初から受給できなかった人も対象になりやすくなります。

この点も、単純な給付削減ではないポイントです。

5年間で生活再建できない場合は「継続給付」

さらに重要なのが、5年間終了後です。

障害の状態にある人や、十分な収入を確保できていない人については、

最長65歳まで遺族厚生年金を継続

できる制度が新設されます。

厚生労働省の説明では、単身者の場合、就労収入が月額約10万円程度以下なら継続給付が全額支給される想定です。

所得が増えると段階的に減額され、遺族厚生年金額にもよりますが、就労収入が概ね月20万~30万円を超えると全額支給停止になるとしています。

つまり、

「5年経ったら収入ゼロでも強制的に打ち切られる」

という仕組みではありません。

さらに「死亡分割」で将来の自分の年金を増やす仕組み

今回の改正では、新たに死亡分割という仕組みも導入されます。

亡くなった配偶者が婚姻期間中に加入していた厚生年金の記録の一部を、生存配偶者側へ分割し、将来受け取る老齢厚生年金へ反映させる仕組みです。

従来のように「遺族年金を長期間受け取る」形だけではなく、

死別直後は手厚く現金給付し、その後は本人自身の老齢年金につなげる

という方向へ制度設計が変わります。

子どもがいる家庭はどうなる?

18歳になった年度末までの子どもを養育している期間については、原則として現在の制度が維持されます。

さらに今回の改正では、遺族基礎年金の子どもの加算額について、

年間約23万5,000円 → 28万円

へ引き上げる見直しも予定されています。

子どもが18歳年度末を迎えた後は、その時点から原則5年間の増額された有期給付と、条件を満たせば継続給付の対象となります。

「中高齢寡婦加算」も段階的縮小へ

遺族年金のもう一つの大きな変更が、中高齢寡婦加算です。

現行制度では、一定の40歳以上65歳未満の妻に遺族厚生年金へ加算されています。

2025年度の加算額は年62万3,800円です。

2028年4月以降に新たに発生する中高齢寡婦加算については、25年間かけて段階的に縮小される予定です。

ただし、すでに加算を受けている人については見直しの影響を受けません。

遺族には「年金生活者支援給付金」が上乗せされるケースも

遺族年金に関連して、もう一つ確認したい給付があります。

一定の所得以下で遺族基礎年金を受け取っている人には、「遺族年金生活者支援給付金」が支給される場合があります。

2026年度の基準額は、

月5,620円

です。

これは遺族厚生年金そのものとは別制度です。

そのため、配偶者を亡くした場合には「遺族年金だけ」を確認するのではなく、

  • 遺族基礎年金
  • 遺族厚生年金
  • 年金生活者支援給付金
  • 健康保険の埋葬料
  • 自治体の葬祭費

などをまとめて確認することが重要です。

2028年改正は「全員5年で打ち切り」ではない

今回の制度改正について、

「遺族年金が5年で廃止される」

という表現だけが独り歩きすると、制度の実態を大きく誤解する可能性があります。

正確には、

子どものいない60歳未満の配偶者を中心に、男女共通で原則5年間の手厚い給付へ移行する

という見直しです。

その一方で、

  • 給付額を約1.3倍にする
  • 収入要件を撤廃する
  • 男性の受給対象を拡大する
  • 低所得者・障害者は5年後も継続できる
  • 死亡分割で老後の自分の年金へ反映する

といった措置も同時に導入されます。

「期間」だけではなく、誰が対象になり、いくら受け取れ、5年後に何が起きるのかまで確認することが大切です。

この記事のポイント

  • 遺族厚生年金の見直しは2028年4月1日施行予定
  • 子のない60歳未満の配偶者は、将来的に男女とも原則5年間
  • 女性は20年間かけて段階的に移行
  • 2028年度に40歳以上となる女性は今回の有期化の影響を受けない
  • 現在の受給者も影響なし
  • 18歳年度末までの子どもを養育中は現行給付を維持
  • 5年間の給付額は現在の約1.3倍
  • 有期給付では年収850万円未満という収入要件を撤廃
  • 低所得・障害など一定条件なら最長65歳まで継続給付
  • 男性はこれまでより受給対象が拡大
  • 死亡分割制度も新設
  • 遺族基礎年金受給者には月5,620円の支援給付金が上乗せされる場合もある

よくある質問

Q:2028年になったら、現在もらっている遺族厚生年金も5年で終了しますか?

いいえ。すでに遺族厚生年金を受給している人は、今回の見直しによる影響を受けません。

Q:50代の女性も2028年から5年間になりますか?

2028年度に40歳以上となる女性は今回の有期化の対象外です。女性については20年間かけて段階的に移行します。

Q:5年経過したら収入がなくても給付はゼロですか?

いいえ。障害状態にある人や収入が十分でない人には継続給付があり、最長65歳まで支給される場合があります。

Q:子どもがいる場合も5年間ですか?

18歳年度末までの子どもを養育している間は、基本的に現在の給付内容が維持されます。子どもが対象年齢を超えた後に有期給付へ移行する仕組みです。

Q:遺族厚生年金以外にも遺族が受け取れるお金はありますか?

条件によっては、遺族基礎年金、遺族年金生活者支援給付金、健康保険の埋葬料、自治体の国民健康保険の葬祭費などがあります。