外国人運転者による死亡・重傷事故が増えています。警察庁がまとめた2026年上半期の統計では、外国人運転者による死亡・重傷事故は323件。前年同期より56件増え、記録が残る2006年以降で最多となりました。

9月8日には、埼玉県川口市で2026年1月に発生した死亡事故の公判についても報じられました。通勤中だった19歳の男性会社員がスクーターで交差点に進入したところ、赤信号を無視したとされるトルコ国籍の男が運転する乗用車と衝突し、男性は搬送先の病院で死亡しました。

報道では、被告の法廷での受け答えや遺族への態度も伝えられています。ただ、事故被害者や家族にとってもう一つ重要なのが、「加害者から十分な賠償を受けられない場合、どの制度で救済されるのか」という問題です。

重要:外国人運転者による事故件数が増えているという統計だけから、「外国人だから事故を起こしやすい」と結論づけることはできません。323件は人口・免許保有者数・走行距離などで調整した事故率ではありません。また、2026年上半期の323件のうち266件、82.4%は日本の運転免許を保有する運転者による事故と報じられています。本記事では国籍ではなく、事故被害者の補償制度に焦点を当てます。

2026年上半期は323件、外国人運転者の重大事故が過去最多

警察庁の2026年上半期統計によると、全国の交通事故死者数は1,162人で、前年同期より1人増でした。一方、外国人運転者による死亡・重傷事故は323件で、前年同期から56件増加しています。

上半期の外国人運転者による死亡・重傷事故
2022年180件
2023年227件
2024年239件
2025年267件
2026年323件

2026年上半期の323件のうち、外国の運転免許証を日本の免許証に切り替える「外免切替」を行った運転者によるものは68件と報じられています。

一方で、323件のうち266件は日本の運転免許保有者による事故です。したがって、「外国免許で運転している人だけの問題」と単純化するのも正確ではありません。

外免切替は2025年10月から厳格化

警察庁は2025年10月から、外国免許を日本の免許へ切り替える「外免切替」の制度を厳格化しました。

  • 原則として住民票の写しを求め、住所確認を厳格化
  • 知識確認の問題数を10問から50問へ増加
  • 合格基準を7割から9割へ引き上げ
  • 技能確認に横断歩道の通過などの審査項目を追加

制度はすでに厳しくなっていますが、事故防止には免許制度だけでなく、日本特有の左側通行や交差点ルールの周知、レンタカー利用時の多言語案内なども含めた対策が求められます。

川口市の事故、19歳男性は「通勤中」だった

今回報道された川口市の事故では、死亡した19歳男性は会社へ向かう途中だったとされています。

この「通勤中」という点は、公的補償を考えるうえで非常に重要です。一定の要件を満たす通勤途中の交通事故は、労災保険上の通勤災害として扱われる可能性があるためです。

交通事故の被害者は、自賠責保険だけでなく、状況によっては労災保険の給付も確認する必要があります。

事故被害者が確認したい① 自賠責保険は死亡で最高3,000万円

日本では、原則としてすべての自動車に自賠責保険・共済への加入が義務付けられています。目的は交通事故の被害者救済で、対人事故について最低限の補償を確保する制度です。

被害自賠責保険の支払限度額(被害者1人につき)
傷害最高120万円
死亡最高3,000万円
後遺障害等級に応じ75万円~最高4,000万円

死亡の場合は、葬儀費、逸失利益、本人・遺族の慰謝料などが対象になります。

「3,000万円給付」ではありません:死亡事故だから遺族全員へ一律3,000万円が振り込まれる制度ではありません。3,000万円は被害者1人あたりの自賠責保険の支払限度額で、実際の支払額は損害額等に基づき決まります。

加害者が支払わなくても「被害者請求」ができる

交通事故では、加害者本人から賠償金が支払われないケースもあります。しかし、自賠責保険には「被害者請求」という仕組みがあります。

加害車両が自賠責保険に加入していれば、被害者や遺族は加害者を経由せず、加害者が加入している損害保険会社・共済組合へ直接請求できます。

さらに、当面の費用を早く確保するための「仮渡金」制度もあり、死亡の場合は290万円、傷害の場合は程度に応じて40万円、20万円、5万円を請求できます。

加害者の国籍は基本的な分岐点ではありません:自賠責の被害者救済では、加害者が日本人か外国人かではなく、加害車両の自賠責加入状況や事故による損害などが重要です。

事故被害者が確認したい② 無保険・ひき逃げなら「政府保障事業」

問題になるのは、加害車両が自賠責保険に入っていなかった場合や、ひき逃げで加害車両そのものが分からない場合です。

こうした場合、自賠責保険へ通常の請求ができません。そこで用意されているのが、国土交通省の「政府保障事業」です。

政府保障事業は、自賠責の対象にならない無保険事故・ひき逃げ事故の被害者について、健康保険や労災保険など他の社会保険給付、加害者からの支払いを考慮したうえで、なお残る損害を法定限度額の範囲で国が塡補する制度です。

事故の状況確認する制度
加害車両が自賠責加入自賠責保険・任意保険。被害者から直接請求も可能。
加害車両が無保険政府保障事業を確認。
ひき逃げで加害車両不明政府保障事業を確認。
通勤中・仕事中の事故労災保険も確認。

政府保障事業は「国からの給付金」ではなく立替救済

政府保障事業は、一般的な意味での生活支援給付金とは性質が異なります。

国が最終的な救済措置として損害を塡補した後、加害者が特定されている場合などには、国が本来の損害賠償責任者へ支払額を求償します。

つまり、「無保険で事故を起こせば国が代わりに払ってくれるから加害者の責任はなくなる」という制度ではありません。

事故被害者が確認したい③ 通勤事故なら労災の「遺族給付」

川口市の事故のように、労働者が通勤途中に交通事故で死亡した場合、労災保険上の通勤災害と認められれば、遺族は遺族給付葬祭給付を請求できる可能性があります。

通勤災害の遺族給付には「遺族年金」と「遺族一時金」があります。

  • 遺族年金:遺族の数などに応じて、給付基礎日額の153日分~245日分を年金として支給
  • 遺族一時金:遺族年金を受けられる遺族がいない場合などに、給付基礎日額の1,000日分
  • 遺族特別支給金:一定の要件を満たす場合、遺族の数にかかわらず一律300万円
  • 葬祭給付:通勤災害で死亡した人の葬祭を行う人へ一定額を支給

今回の遺族にこれらの給付が実際に支給されたという意味ではありません。報道上、被害者が「通勤中」だったことから、一般論として確認対象となる制度を紹介しています。通勤災害の認定や受給資格は労働基準監督署の判断・制度要件によります。

自賠責と労災は「両方満額を二重取り」できるわけではない

通勤途中の交通事故では、自賠責保険と労災保険の双方が関係する場合があります。

厚生労働省によると、同じ損害について自賠責保険等と労災保険から二重に塡補されないよう、支給額の調整が行われます。どちらを先に受けるかは被災労働者や遺族が選ぶことができます。

一方、労災の特別支給金など、自賠責との調整対象にならない給付もあります。実際の事故では損害項目や請求の順番が複雑になるため、労働基準監督署や保険会社、交通事故に詳しい専門家へ確認することが重要です。

重い後遺障害が残った場合はナスバの「介護料」も

死亡事故だけでなく、重傷事故で重度の後遺障害が残った場合にも公的支援があります。

独立行政法人自動車事故対策機構(ナスバ)は、自動車事故により脳・脊髄・胸腹部臓器を損傷し、日常生活で常時または随時介護が必要になった人について、一定の要件のもとで介護料を支給しています。

2026年度の案内では、障害の程度等に応じ月額42,700円~226,330円の範囲で支給される区分があります。所得制限や他制度との重複制限もあるため、詳細はナスバの最新案内を確認してください。

「外国人事故だから補償されない」は誤解

事故の加害者が外国籍だった場合、「帰国されたら賠償を受けられないのでは」「外国人だから自賠責が使えないのでは」と不安になる人もいるかもしれません。

しかし、日本国内で対象車両による人身事故が起きた場合、自賠責による被害者救済の基本は加害者の国籍で分けられていません。加害車両の保険加入状況、事故態様、損害額などを確認して手続きを進めます。

無保険車やひき逃げの場合にも政府保障事業があります。重要なのは、「相手の国籍」を理由に諦めることではなく、利用できる制度を順番に確認することです。

事故が増えた背景は「国籍」だけでは説明できない

2026年上半期の外国人運転者による死亡・重傷事故が323件と過去最多になったことは事実です。ただし、この数字は外国人運転者全体の人口当たり事故率や走行距離当たり事故率を示すものではありません。

在留外国人数や訪日客の増加、運転機会の増加、運転免許の取得形態、日本の交通ルールへの習熟度など、複数の要因を分けて分析する必要があります。

特定の国籍全体を事故リスクと結びつけるのではなく、事故類型や免許制度、レンタカー利用時の注意喚起など、具体的に改善できる要因を見ることが交通安全対策では重要です。

交通事故の被害に遭ったとき確認したい順番

  1. 警察へ届け出る:交通事故証明書など今後の手続きに必要。
  2. 加害車両の自賠責・任意保険を確認:保険会社、証明書番号などを確認。
  3. 自賠責の被害者請求を確認:加害者から支払いが進まない場合でも直接請求が可能。
  4. 無保険・ひき逃げなら政府保障事業を確認:損害保険会社・共済組合の窓口で請求。
  5. 仕事中・通勤中なら労災を確認:労働基準監督署へ相談。
  6. 重度後遺障害ならナスバ支援を確認:介護料などの対象になる可能性あり。

この記事のポイント

  • 2026年上半期の外国人運転者による死亡・重傷事故は323件で過去最多
  • 前年同期より56件増え、うち68件は外免切替をした運転者による事故
  • 一方、323件の82.4%に当たる266件は日本の運転免許保有者による事故
  • 自賠責は死亡で最高3,000万円、傷害最高120万円、後遺障害最高4,000万円
  • 無保険車・ひき逃げでは国の「政府保障事業」が被害者救済の対象になり得る
  • 通勤中の死亡事故なら労災の遺族給付・葬祭給付も確認する
  • 自賠責と労災は同じ損害について二重塡補にならないよう調整される
  • 加害者が外国籍だから補償制度が使えない、という仕組みではない

よくある質問

Q:外国人ドライバーに事故を起こされた場合、自賠責は使えますか?

加害者の国籍ではなく、加害車両の自賠責加入状況などによって判断します。加害車両が自賠責に加入していれば、被害者から保険会社へ直接請求することもできます。

Q:相手が無保険だったら泣き寝入りですか?

無保険車による人身事故では、一定の要件のもとで国の「政府保障事業」による救済を受けられる可能性があります。

Q:ひき逃げで相手が分からなくても補償はありますか?

加害車両が特定できないひき逃げ事故も、政府保障事業の対象になり得ます。

Q:自賠責で死亡なら必ず3,000万円もらえますか?

いいえ。3,000万円は死亡による損害についての支払限度額です。実際の支払額は損害額や支払基準などに基づき決まります。

Q:通勤途中の交通事故なら労災も使えますか?

合理的な通勤経路・方法による事故など、労災保険上の通勤災害の要件を満たせば対象になり得ます。死亡した場合は遺族給付や葬祭給付があります。

Q:自賠責と労災を両方もらえますか?

双方が関係する場合はありますが、同じ損害が二重に補償されないよう支給調整が行われます。個別の請求方法は労働基準監督署や保険会社へ確認してください。

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